2007年10月24日

『さちの世界は死んでも廻る』

 お久しぶりです。「当代随一のガガガ文庫研究家」こと狂乱です。今日から勝手に名乗ることにしました。「いや、ガガガ文庫への愛は俺のほうが強い」と言う方、ご一報を。つつしんでこの名誉を献上します。
 前回のワークブックで積み残したぶん(期待賞の五冊)をようやく読み終わりました。本日より、皆さんお待ちかねのガガガ祭りを開始します。しばらくの間、文章がお見苦しくなること、ご容赦下さい。
まずは第一撃。「さちの世界は死んでも廻る」(著・三日月、ガガガ文庫)

 女子高生・吉岡さちは、念願かなって憧れのクラスメート、高田アツミと付き合うことに。ところが、生来のドジであるさちは、浮かれるあまり前方不注意で、ダンプにはねられ死亡。なぜかゾンビになってしまう。実はゾンビを狩る組織の一員であったアツミにその身を狙われることになり……

 人物造形が完全に破綻している。というのも、ストーリーの都合によってさちとアツミが愛し合ったり殺したいほど憎み合ったり、ころころ気持ちを変えるからだ。さしたる動機もなく簡単に殺意を抱き、単純に和解する二人。情景描写に問題が少ない分、心象描写の致命的なばかりの崩壊が目につく。作者がまったく意図せずに主人公がヤンデレ(というか人格崩壊)になってしまった稀有な作品だ。
 幻覚を見せたり空気の矢を放ったりする能力や、そもそもさちがゾンビになった理由などの設定についても、全く説得力がない。各キャラクターの台詞も、気恥ずかしくなるくらい陳腐な言葉の連なり。
 戦闘の中で二人が初めてお互いを認識したときには
「……………………えっ?」
「……………………嘘、だろ?」
とか言う。無意識に重ねられたベタ台詞の山は読者を赤面させる。
 
 それでも、バトルだけ取り出すと『携帯電話俺』よりまだ面白い。いや、比べる対象が間違っているか。
posted by 狂乱 at 18:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 今日の一冊 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年07月17日

『楽園の知恵 あるいはヒステリーの歴史』

 試験期間ですね。「現実逃避日和」ともいいます。狂乱が土日に読んだ本は以下の四冊。
1『撲殺天使ドクロちゃん六』(口直しのために読みました)
2『楽園の知恵 あるいはヒステリーの歴史』(表紙買いして読みました)
3『つぎの岩につづく』(ラファティ好きな方に取り入るために読みました)
4『ゴーレム100』(現実逃避のために読みました)

 『楽園の知恵 あるいはヒステリーの歴史』(牧野修、ハヤカワ文庫)の表紙は本当に美麗。ハヤカワの表紙の娘に惚れたのは人生で三度目です。(あと二回は、『軌道通信』『ジョナサンと宇宙クジラ(旧版)』。)
 狂乱は牧野修初挑戦。のっけから、心を抉られるような良質奇想ホラーが並び、治っていないカサブタを次々はがされていくような、いやーな感覚を楽しんでおりましたが(ほめ言葉です)、「インキュバス言語」で爆笑。筒井康隆かよ!と思ってしまいましたが考えてみれば正当後継でした。
 オールタイムベストにランクインされた「踊るバビロン」でも、得体の知れぬイメージの激流に圧倒されました。もともとの物語が変なのに「武器」として生み出される物語も輪をかけて奇天烈。文章のリズムや注釈もあいまって異常さ倍増。
 でもまあ、個人的に一番好きなのは「演歌の黙示録」かと。演歌史に神秘主義をぶちこんだ怪作。
「彼のデビュー曲『黄金の暁恋唄』は北国で恋人のことを想いながら夜明けを迎える酒場女の歌である。が、その歌詞はユダヤ神秘主義思想の聖文解読技法ゲマトリアを用いて解読すると、イシス神を讃える聖句に満ちている。」
「そして決定的だったのが連続殺人鬼『演歌王』の登場だ。少女ばかりを狙って演歌の歌詞に見立てて惨殺していった犯人は、捕まえてみれば元演歌歌手。彼は演歌神秘主義者を自称し演歌の神に捧げるために少女達を殺したのだと語った。」
 万事がこの調子。『日本薔薇十字興業』って……黒井津楼膳(くろいづろうぜん)って…この計算ずくのどうしようもなさが素敵だ。

 久しぶりに5つ星な本を読んだなあ、という感慨で胸が満たされております。ていうか今までスルーしてきた自分がSFファンとして変なんだよ!反省。
posted by 狂乱 at 19:22| Comment(0) | TrackBack(1) | 今日の一冊 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年07月13日

『十八時の音楽浴 漆黒のアネット』

こんにちは。ライトノベルの最終処分場で殺鼠剤をばら撒く者です。

今日は、いつもとは、趣向を、変えて、行って、みます。

「アレクサンダー大王もアーサー王も加藤鷹も全裸で逃げ出すほどの英雄よ!」
「ちっちゃいからハメ撮りしやすいし、体重も軽いから、いろんな体位がラクラク楽しめちゃうのになー♪」
「さあ!ミルキくんもこれを着けて、ケダモノのようにコハクの淫らに濡れそぼった肉体を舐って嬲ってパックリとたべちゃってよっ!」
「ペンっ……ぼく……気持ちいいよぉ……っっ」
「アネット……待っててね……もうすぐ甘く囁いて押し倒して甘く囁いてたけり狂ったモノをブチ込んで甘く囁いてさんざんハメ倒して甘く囁いてあげるからね……」
「くぅ……ん……ミルキくんのバカァ……ああんっ……こんなの、激しすぎるよぉ!」
「ペンが何度も何度もぶっかけて、ベトベトのカリカリにしちゃうんだもの……」
「よォし、今夜はあいつと中出しだ!」

以上、全て、『十八時の音楽浴 漆黒のアネット』(二次元ガガガ文庫、ゆずはらとしゆき)より。

読みたきゃ読めば?

怒りに任せて書いたのでない正式なレビューは、WORKBOOK「ガガガ文庫全レビュー」に掲載予定。
posted by 狂乱 at 18:37| Comment(1) | TrackBack(0) | 今日の一冊 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年07月12日

『火葬国風景』『十八時の音楽浴』

 こんにちは。ライトノベルの源流で鮭をわしづかみにするものです。
 本日はガガガ文庫の跳訳『十八時の音楽浴 漆黒のアネット』を読む下準備として、原作版『火葬国風景』(海野十三、青空文庫)『十八時の音楽浴』(海野十三、青空文庫)を読んでみました。ではあらすじから。

 『火葬国風景』
 売れない探偵小説家、甲野八十助はある日思いがけない人物を目撃する。それは数ヶ月前に死んだはずの友人・鼠谷仙四郎だった。動揺する甲野の前に鼠谷は再び姿を現し、「おまえの死んだ妻と再会させてやろう」と話を持ちかける。
 半信半疑で話を聞いていた甲野は罠に落ち、生きたまま棺の中に閉じ込められ……

 『十八時の音楽浴』
 ミルキ国では、毎日十八時に行われる音楽浴によって、国民の洗脳支配がなされていた。音楽浴のシステムを作った変人・コハク博士は、現在は人造人間の研究に勤しんでいる。だが国王ミルキとアサリ大臣は、国民の更なる洗脳支配を願うあまり、コハクを陥れ、更に……

 『火葬国風景』のほうはさすがに古きよき時代の探偵小説という感じがする。何かもっとスケールのでかい話を期待していたので。それでも、火葬炉の中でもがくシーンはイメージの喚起力がある上、緊迫感があります。
 『十八時の音楽浴』はやはり凄い。
 異常な性差逆転劇、脳を麻痺させる音楽浴、美しい人造人間、etc…
 妖しげなモチーフがごちゃごちゃと投入されているのに、下品と感じさせないのは、この作品を包む異世界的な雰囲気(事実、異世界なんだけど)によるところが大きい。この世界を短編一本で使い切ってしまう作者の潔さもよい。
 クライマックスが白眉。毎日一回だけ行われていた音楽浴が、大臣の方針で一時間おきに行われることに。だが、音楽浴は人間の脳に負担を与えるものだから……どえらいことになる。
 いまから70年近く前に書かれた作品なのに、面白いと感じられる。本当に良い作品って寿命長いんだなあ。

 跳訳版『十八時の音楽浴』は意外にちゃんと読めるレベルの作品だと聞いたので、期待しています。読み次第ここで取り上げます。
posted by 狂乱 at 17:26| Comment(1) | TrackBack(0) | 今日の一冊 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年06月28日

『ケータイ少女〜トライアングルスピリッツ〜』

 こんにちは。ライトノベルの地雷原でタップダンスを踊る者です。
本日槍玉に挙げるのは『ケータイ少女〜トライアングルスピリッツ〜』(涼風涼、ガガガ文庫)。

子供の頃主人公に助けられた、転校生の美少女。
男言葉を使う、主人公の幼馴染。
恋愛に無頓着で、一心に正義の味方を志す主人公。
ケータイに憑依し、主人公に幸せをもたらそうとするケータイ少女。
変質者疑惑のある、クラスメイトの少年。

 こうしてキャラクターだけ書き連ねると、まるで面白い作品であるかのように感じられるから不思議だ。頭の中で勝手にキャラクターを動かしストーリーを作るのが一番楽しい読み方である。以上。
 ……これで終わらせるのもあんまりなので一応ストーリーを。
ケータイ少女は主人公を誰かとくっつけて幸せにしようとするが、その過程で転校生の少女を付け狙う者の存在が明らかに。その目的は。

 何一つ大きな事の起こらない日常が、違和感あふれる日本語でつづられる。その上で文章も会話も面白くないとなると、弁護しようがありません。「中学生にもなって正義の味方を目指す主人公」をちゃんと掘り下げれば、それだけで会話も展開も楽しい小説になると思うのですがねえ。
 あと、重みもひねりもない恋愛模様はガガガ文庫の基本仕様なのか?幼馴染との関係がこじれてきて、ようやく面白くなるかと思ったら、メールを何通か送っただけでわだかまりが解けてしまう。ああ、薄っぺらい!
 キャラ一人に悲しい過去を背負わせてもクライマックスが全く盛り上がらないのは不思議としか言いようがない。

巻末対談より。
ゲームプロデューサー「きっとこのキャラ人気出ますよ」(大意)
作者「出ないと困りますよ、意識して書きましたしね」(大意)

ライトノベル舐めんな、ガガガ文庫。
posted by 狂乱 at 15:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 今日の一冊 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする