2007年11月06日

『みすてぃっく・あい』

 ガガガ文庫の安らかならんことを祈って。狂乱です。
 ついにガガガ文庫が完結しました。個人的に。もうそろそろ社会復帰をしたいので、ガガガは終わりにしようと思ってます。

 期待賞最後の一冊『みすてぃっく・あい』(一柳凪、ガガガ文庫)に入る前に、今更ながらおさらいを。「期待賞受賞作」といえば賞を取ったものであるように聞こえます。が、その実態は、最終選考にこそあがったものの、審査員が「大賞」「ガガガ賞」「佳作」に推さなかった作品、すなわち誰一人マークをつけなかった作品なのです。
 つまり、他の文庫では商業出版には至らない、最終選考どまりのものを、ガガガ文庫側は手直しを入れず(入れたらこんなことにはならない)出版しているわけです。ですから読めるレベルではない小説が世に出てしまうのは当然といえば当然。これは編集部の品位の問題であって、審査員を責めるべきではないのです。

 審査員が非難されるべきはただひとつ、『虚数の庭』を見逃したことです。『マージナル』ごとき凡庸な小説を大賞にして、『学園カゲキ!』のようなトゥルーマンショーをガガガ賞にして、『RE:ALIVE』みたいな稚拙な人外バトルと、『携帯電話俺』のように微塵も面白くない小説に佳作を与えておきながら、『虚数の庭』が無冠だということ。
 確かにこの小説は、150ページほど、冬休みの女子寮に残った四人の少女の他愛もない物語に費やされます。普通のライトノベルという観点から見れば物足りなく、退屈に感じるかもしれません。
 しかし、この小説は、間違いなく傑作です。ライトノベルというジャンルを踏み越える飛び道具です。いきなり『法の書』を暗唱するキャラが出てきたりする、幻想系百合ミステリーです。私はこの一冊を、今年度ベストのラノベと考えます。

 ネタバレの文章が書いてある口絵、三分の二までの内容がばらされているあらすじ、そして『みすてぃっく・あい』などというタイトルに改変し、こういう装丁にしてこの本を届けるべき人間から遠ざけた編集部、そして誰よりもこの作品を無視した審査員への怒りを。

 作者の方、こういう理不尽な扱いにもめげず頑張って下さい。


ラベル:ガガガ
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2007年10月31日

『RIGHT×LIGHT』

  ガガガ文庫一冊でご飯三杯はいけます。狂乱です。
  期待賞四冊目は、『RIGHT×LIGHT 〜空っぽの手品師と半透明な飛行少女〜』(著:ツカサ、ガガガ文庫)

 三年前、遠見啓介は海難事故で両親と妹を失った。それ以来、なぜか身についた不可解な能力を隠しながら、啓介は過去の記憶にさいなまれる生活を送っていた。だがある日、正体不明の敵に追われる半透明な少女アリッサに遭遇し……

 オーソドックスな魔法もの。啓介の持つ能力は、右手で触れた魔術および物体を消滅させるという、某有名ライトノベルの主人公とほぼ同じものである。おいおい。
 ただ『RIGHT×LIGHT』では、その能力は、事故に遭った時、妹の手を離してしまってから取り付いたものだと説明されている。つまり能力とトラウマが表裏一体となっているわけで、これは上手いと思う。終盤にはその能力が身についた真の理由も明かされる。
  しかし気になるのは、勝気な魔法少女であるヒロインや、彼女が魔法世界から逃走した悪人を追っているという設定、サブヒロインのクラスメートなど、あまりにも王道に忠実すぎるところ。路地で主人公とぶつかって登場するヒロインってまだいたんだ。
 
  普通の精神状態なら、狂乱は「凡庸」と切って捨てた本かもしれないが、実は割と気に入っている。擬音語、擬態語の頻出とか粗も目立つが、「まっすぐな物語をまっとうに描けること」の大切さを、ガガガ文庫という反面教師は教えてくれた。ガガガ文庫の中で普通に読める作品に出会うということは、核戦争後の変わり果てた地球で家族と再会するかのような、静かな感動を呼ぶのである。
  テーマは「他人に手をさしのべるということ」。読後感はさわやかです。
  日塔奈美が好きになれるあなたへ。
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2007年10月30日

『パステル都市』

 こんにちは。「ごめん、俺、脳内彼女いるから」でおなじみ、狂乱です。
 ガガガ文庫フルコースの箸休めをひとつ。お題は『パステル都市』(著:M・ジョン・ハリスン、訳:大和田始、サンリオSF文庫)
 はるかな未来。“午後の文明”の崩壊後に誕生したヴィリコニウム帝国は、古代文明の遺産にすがりながら栄華を保っていた。かつて帝国の騎士団員として活躍したクロミスは、詩人に身をやつし隠棲している。その耳に届いたのは、北方民族によるヴィリコニウムへの宣戦の知らせ。祖国の危機に、クロミスはかつての戦友とともに立ち上がった。

 遠未来を舞台にした、由緒正しきヒロイックファンタジー。物語に華を添えるのは、古代文明の遺した兵器の数々。エネルギー剣《バーン》や、機械人形“ゲテイト・ケモジット”、金属のハゲワシ、しまいには飛行艇まで登場する。蹂躙される祖国、旧友の裏切り、古代の死都、亡国の女王などなど、そのままFFに放り込めるようなモチーフがてんこ盛り。
“錆の砂漠”や“パステル都市”のイメージも鮮烈で良い。ちなみに1971年に書かれた作品である。
 この話を作者は250ページ足らずで強引に畳み切っている。その分、ラストがやや急ぎすぎた感があるが、現代のファンタジー作家に書かせたら薄めまくった末に三部作になるだろうからこれで良いと思う。
 今作よりもさらに面白いと本国で評判の、同じ未来史上に位置する作品『翼の嵐』はサンリオSF文庫刊行予定。
 みなさんお察しのとおり、未刊である。
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2007年10月29日

『カラブルワールド 緑の闇』

やあ! テレビの前のみんな、きょうもガガってるかい? 狂乱です。
またも行ってみましょう。期待賞三発目は、『カラブルワールド 緑の闇』(著・香月紗江子、ガガガ文庫)
1932年。超古代文明研究家のコールランドは、助手のライティス、ミッケラとともに英領ギアナへと降り立った。目的はひとつ、かつてこの地を支配したという女王、ガリエリテの痕跡を調査すること。だが、現地では、村ひとつを壊滅させる不可解な大量殺戮事件が起きていた……

この本を褒めるべきか貶すべきか最後までスタンスを決められなかったため、よい点わるい点を箇条書きにしてみた。
よい点
◆ ヒロインのミッケラは呪術師の卵である。ミッケラの手帳には「恨み呪います」というコーナーがある。そこに名前を書かれた人間はなぜか不幸な目にあうらしい。
◆ 敵の攻撃手段が、ガガガの受賞作中いちばんグロテスクである。
◆ 主人公ライティスのまっとうな成長物語に仕上がっている。

わるい点
◆ 「因子持ち」という人外の設定が安直かつ汎用性が高すぎる。「吸血鬼因子」「獣人因子」ってあなた。
◆ 男女の関係が読んでいて全体に気恥ずかしい。どうもルルル向けのような気がする。
◆ もしくはやや年少向け。黒幕の目的が魔術による世界支配だったりする。

ただ、同じ1930年代を舞台にした、エンターテイメントとして微塵も面白くない「めいたん」よりも、こちらの方が良作であることは間違いない。
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2007年10月25日

『7/7のイチロと星喰いゾンビーズ』

 こんにちは。ガガガ文庫最後の守り手、狂乱です。
 期待賞二冊目は『7/7のイチロと星喰いゾンビーズ』(著・羽谷ユウスケ、ガガガ文庫)
 七重人格者である明神一郎は、友人を喪い悲しみに打ちひしがれる少女・結衣子と知り合う。結衣子の友人の死の真相を探るうちに、一郎は、知らず知らず、人類を脅かす存在「星喰い」と、その狩り手「夜祓い」との戦いに巻き込まれていく。

 構成力がないのに複数視点を用い、かつ自分の書きたい要素をぶち込んでいるので、いびつで追いづらい話になっている。
 そもそも、七重人格という設定も必然なく安直に用いられている。(腕っぷしの強い人格や推理力のある人格、ピッキングが出来る人格もいる。便利なことだ。ただ主人格が一番の駄目人間というのは新しい)
 また、サブキャラには、出所のよくわからない「憑き物遣い」という異能者がいるが、話の本筋である異質な存在「星喰い」と特に関係があるわけではない。(七重人格設定も、「星喰い」とは何の関係もない) 何の前置き・伏線もないまま、今までの話とぜんぜん違う要素を次々放り込まれても読者は困る。

 特筆すべきはその憑き物遣いが敗死するシーン。彼は、作中で一度も言及されなかったその能力を、モノローグの洪水で説明した挙句に、敵の手にかかって屠られる。「憑き物遣い」という言葉が初登場してからわずか10ページ。噛ませ犬というではない。作者の中では格好良いシーンらしいということはひしひしと伝わってくる。それでも、ひとひねりあるクライマックスだけはわりあい盛り上がる。

 タイトルが正式には、『“探し屋”クロニクル 7/7のイチロと星喰いゾンビーズ』であることや、回収されていない伏線があることから、作者が続編を書く気満々というのも痛いほどよく分かった。
 こういう風に、婉曲的に批判すればいくらでも書けるが、一言で済ますことも出来る。「カオス」と。
posted by 狂乱 at 19:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 今日の一冊 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする