2012年度第5回読書会は新入生2名、会員5名の計7名の参加になりました。
本年度最後の新歓読書会の課題本は、第146回芥川賞受賞作でもある、円城塔「道化師の蝶」でした。
読書会・ブログ更新の担当はゆーすけです。
作品の性質がそのまま反映されたかのように発散していった読書会のライブ感をお伝えするため、発言と申し訳程度の状況説明だけを抜き出して並べてみることにします。
「読んで、なんじゃこれって思った人は挙手せよ」
全員挙手。
「レジュメの写真にあるのが道化師の蝶です」
「VかYみたいな字がナボコフのサインかと」
「VladimirのVか」
少し円城さんの経歴説明。
「円城さんの特徴について、網羅的でない解説」
「(1)構造から小説を作る」
「『ドン・キホーテ』なんかが既にやっていたメタフィクションをさらに設計図そのままに抜き出したボルヘスの系譜にあるのだと思う」
「(2)登場人物がしばしば人間でない」
「巨大知性体と呼ばれるコンピューターだとか」
「架空の数学的構造体だとか」
「双子素数だとか」
「最近、人間に近づきつつある。道化師の蝶のはわりと人間」
「(3)あらゆるものが現象として著述される」
「作用とかを常に考えちゃう人ですな」
サイン会で配布された栞に描かれたプロット図を再構成。
「蝶はどこから来るのか」
「とりあえずX章」
「無活用ラテン語の国から」
「エージェントのレポートを読んだ友幸友幸が変身?」
「読むことが作用として記述されている」
「ある種の交わり。交尾?」
「そもそもレポートの内容は何なのか。日本語だと言われていたのになぜ無活用ラテン語の世界へ?」
「3つある楕円形は一体何なのか」
「違う位相にある世界?」
「どういう基準で区分されているかよく分からない」
「『繰り返し語られ直すエピソードが、互いに食い違いを見せるたび、文法の方が変化していく言語というものはないものだろうか』(単行本69頁)」
「飛行機の中での会話が3回あって、それぞれ矛盾している。既視感の反復。食い違いが出る度に世界が変わっているのでは」
「しかし、Vの創作がなぜTに繋がるのか」
「円城さんにしては動的な作品」
「4次元を使わないと構造が描けなさそう。うねうねと動いているイメージ」
「あくまで『例』なんですよね」
「円城さん、割と信用できない」
「ミスタスは死の都でないとか言いつつこれ架空の都市だよね」
「ネトゲの。だからジュカ語も架空言語」
「ある種のシステムの創造をやろうとしていたのではないだろうか」
「しかも最後には失敗する」
「色んな言語が優劣なく同じレベルで存在する多言語空間の構築。ナボコフがモチーフになっている理由かもしれない」
「一方で、ナボコフは旅する作家というより亡命作家」
「だからナボコフには望郷の念があるが、道化師の蝶の登場人物には明らかにそれが無い」
「家(ホーム)の無い人々の話なんだよね」
「言語にはそれに付随する国や文化圏といったものがあるが、これは純粋な存在としての言語を捉えようとしているのでは」
「言語のみに依拠し、発想の起源を探る」
「耳で聞いて言語学習をし、それを大量に残す。一方で覚えた側からすぐに忘れていく部品その一、友幸友幸」
「もうひとつの起動軸が流通」
「実利的な側面を考え、それがどういう風に流通していくかを考える」
「それが部品そのニ、A・A・エイブラムス、その三、エージェント」
「しかしやっぱりそこに出てくる発想は偽物で、元ネタのナボコフが立ち塞がる」
「『さてこそ、なる連語の扉をくぐって』等と言ってるが、ナボコフのあの使い方は流石にどうなのか」
「タイムマシンの方法をみんなうんうん唸って考えるところを、メタで解決するのは一番ダメなのでは」
「元ネタでかつメタ発言を遠慮なくするナボコフを持ち出すのはアリなのか」
「殆ど嫌味の域にまで達している超絶技巧ことナボコフ」
「ナボコフなら仕方がない」
「ナボコフならやりかねない」
「円城塔のユーモアある文章と夏目漱石の猫の文章は通ずるものがある」
ここからしばし夏目漱石トークに。
「夏目漱石は猫が一番面白い」
「一番ぶっとんでて、現代まで通ってる」
「そう考えると円城さんは意外と古典的」
「夏目漱石は、近代文学の古さ・ローカル性を知りつつも日本には基礎も無いので仕方なく近代文学的なものを書いていたのでは」
「そうか?」
「『道化師をごらん!』では時間と空間について語り手が勘違いしていたと最後に指摘される」
「空間と時間について書いてある部分が道化師の蝶にも多い」
感想タイム。
「正解を求めるとつまらなくなる気がする」
「どう楽しめばいいかさっぱり分からなかった」
「無活用ラテン語ってホントにあったんだ、円城塔のホラ吹きだと思っていた」
「真面目に語っているように装いながらふざけている」
「円城塔なのに、とりあえず何が起こっているかは分かる」
「文章の意味がわかるってすばらしい」
「いや、普段も何が起こっているかぐらいかは分かるよ」
「発想の起源を書くための、物語ではなく実験。個人的には円城さんの作品の中でもかなり面白い方だと思う」
「円城塔の中ではそこまで面白くないが、文芸誌に載ってた作品の中ではかなり面白い」
「文芸誌に載せてたのでは「良い夜を持っている」と「松ノ枝の記」がベストでは」
「いや、「松ノ枝の記」は説明的で云々」
「円城さんはシリアスな文章の方が良い」
「そうか?」
「発想の起源を巡っていった結果最後に立ち塞がるナボコフ」
「オブベに比べるとホラ吹きが優しくなった」
「短いのは彼の美徳」
「さてこそ」
これで今年度の新歓読書会はすべて終了ですが、新会員は引き続き募集しています。
毎週火・金に例会を行っているので興味のある方はぜひご参加ください。