期待賞四冊目は、『RIGHT×LIGHT 〜空っぽの手品師と半透明な飛行少女〜』(著:ツカサ、ガガガ文庫)
三年前、遠見啓介は海難事故で両親と妹を失った。それ以来、なぜか身についた不可解な能力を隠しながら、啓介は過去の記憶にさいなまれる生活を送っていた。だがある日、正体不明の敵に追われる半透明な少女アリッサに遭遇し……
オーソドックスな魔法もの。啓介の持つ能力は、右手で触れた魔術および物体を消滅させるという、某有名ライトノベルの主人公とほぼ同じものである。おいおい。
ただ『RIGHT×LIGHT』では、その能力は、事故に遭った時、妹の手を離してしまってから取り付いたものだと説明されている。つまり能力とトラウマが表裏一体となっているわけで、これは上手いと思う。終盤にはその能力が身についた真の理由も明かされる。
しかし気になるのは、勝気な魔法少女であるヒロインや、彼女が魔法世界から逃走した悪人を追っているという設定、サブヒロインのクラスメートなど、あまりにも王道に忠実すぎるところ。路地で主人公とぶつかって登場するヒロインってまだいたんだ。
普通の精神状態なら、狂乱は「凡庸」と切って捨てた本かもしれないが、実は割と気に入っている。擬音語、擬態語の頻出とか粗も目立つが、「まっすぐな物語をまっとうに描けること」の大切さを、ガガガ文庫という反面教師は教えてくれた。ガガガ文庫の中で普通に読める作品に出会うということは、核戦争後の変わり果てた地球で家族と再会するかのような、静かな感動を呼ぶのである。
テーマは「他人に手をさしのべるということ」。読後感はさわやかです。
日塔奈美が好きになれるあなたへ。