2017年11月04日

第6回漫画コンペログ

サークル会員有志による漫画コンペティションが今11月4日に開かれました。
企画内容としては、「ひとり3タイトルを上限に漫画を持ち寄り、タイトルが重複したら減点。その上で、持ち寄った漫画をプレゼンする」というものです。
開催当日は8人が参加し、激推し漫画をそれぞれプレゼンしてくれました。

以下に当日プレゼンされた漫画作品のリスト発表者ごとにまとめて、簡単なプレゼン内容のまとめとともに載せておきます。
(なお、シリーズものも一巻のみのものも同様に「1作品」として以下には記載しています)

○暇餅

・『北北西に雲と往け』入江亜季
入江亜季の『乱と灰色の世界』に続く新作。既刊1巻。
作者特有の描写による雰囲気がおそろしく良い。
前作から続くファンタジー要素(機械と話せるなど)を残しつつも、今作では情景がより重視されている。
フラッシュなどの迫力重視の画面づくりをあまりせず、静止画の連続などによる間などに独特な雰囲気の根幹がありそう。
加えて、ミステリ的な要素もある謎や、次の展開を期待させるストーリーなど、今後が楽しみな一作。


○ディストピア三太夫

・『冗談だよ、バカだな』岸虎次郎
 おねショタ、BL、先生と生徒、百合というインモラル作品短編集。
 作者の高い画力から描き出されるフェティッシュな描写が魅力。
 同じ作者では『マルスのキス』もおすすめ。

・『やれたかも委員会』吉田貴司
 様々な人間の「やれたかも」を集めた」1話完結の作品。
 これだけ聞くと最低なマンガだが、委員会の人たちが「やれた」か「やれたとは言えない」の札を挙げて、エピソードを分析するのがこの漫画のキモ。
 委員会の男性メンバーはいつも「やれた」の札を挙げるが、女性メンバーが常に「やれたとは言えない」の札を挙げて男の妄想を一刀両断するのが小気味良い。
 情事に至る前の男女の微妙な距離感のあいまを描いた斬新な作品。

・『3秒』マルク=アントワーヌ・マチュー
 正方形のコマが連続し、画面をクローズアップしていくことだけで作品が構成される。一冊まるまる使ってある3秒間を描く実験的な作品。
 部屋が見えてきて、男が見えてきて、男の持つスマホが見えてきて……という風に作品が奥行きを増す感じ。
 読むとサッカーの八百長事件のディティールが浮かび上がってくる。バンドデシネらしい超絶技巧。BD入門にも◎。
 購入者特典の動画もあるよ。
 

○取れ太

・『はじめての甲子園』火村正紀
限界集落で甲子園に出ることを目指して人を集めるハイスピードギャグマンガ。
作者死亡に寄って打ち切りになった涙なしには語れない漫画。線も終わりの方になるにつれて乱れてくる。

・『鬼さんどちら』有永イネ
道徳的なマンガ
先天突起症という設定を軸に、人種問題などの視点も含めながら、突起症の人とどう付き合うのかを描いた作品。
悪気のない善意がいかに怖いものかが描かれている。
障がい者が頑張らなければならないような感動の押し付けに対するアンチテーゼ。

・『ごくりっ』前原タケル
一人の女子高生と二人の男子高生。主人公は女子高生が好きだが彼女はもう一方の男と付き合っている。
主人公が神様にお願いすると、女子高生が主人公の精子を飲まないと死ぬカラダに。
二巻では男が海外から帰ってきてシリアス展開に。主人公に男気があり、よい。


○はんぺん

・『セクシーボイスアンドロボ』黒田硫黄
アフタヌーンの看板作家だった黒田硫黄が、小学館のIKKIに移籍して描いた作品。
筆の作画が特徴的。『[少女庭国]』の矢部嵩が影響を受けている作家。
硫黄作品のなかではエンタメに振れた作品でおもしろい。同作者の『茄子』もいい。

・『ももんち』冬目景
 芸術家一家の主人公が美大の予備校で奮闘する話。1巻完結。
 冬目景の綺麗な絵が魅力。『羊のうた』、『イエスタデイをうたって』も長いけどおすすめ。

・『推しが武道館いってくれたら死ぬ』平尾アウリ
 地下アイドルとそのファンたちをめぐるコメディ。
全財産を岡山の地方アイドルのために費やす女の子の主人公の異様な熱が百合といえば百合だけど、主眼はアイドルとファンの特殊な関係性にある。
地下アイドルにクローズアップしたところが斬新。
 主人公のファン仲間から距離を置かれるほどの主人公の熱狂ぶりがおもしろい。


○アンチ鼻セレブ

・『てるみな』kashmir
架空の世界の鉄道をネコミミ少女が動き回る。panpanyaにも少し近い雰囲気がある。
幻想的な世界が魅力的。とくに廃墟。
ただ少しSF寄りで、複数の駅中が繋がるのは『横浜駅SF』を彷彿とさせるところも。

・『パンプキン・シザーズ』岩永亮太郎
 架空の戦争後の世界を舞台に、戦争被害を受けた人たちを手助けする部隊の話が展開される。
 その部隊は裏向きには、国民感情を害さないように資金を集める部隊。
 話も絵も、巻が進むごとに良くなっている。
 何でも首をつっこみたがるお人好しの主人公が、正義観を変えていく成長(?)物語としての側面もおもしろい。
 作品全体のオタクっぽさは瑕疵かもしれないけど、魅力でもある。

・『きれいなあのこ』吉田丸悠
 アイドルもののオムニバス短編集。
 あるアイドルユニットがいかにして無くなるか、メンバーそれぞれに焦点を当てて描く。
 クライマックスの描き方が非常に上手い。
 見開き力がとても高い。
 セリフ回しも特徴的。
 吉田丸悠を発掘しただけでも『ひらり』は仕事をしたといえる。アフタヌーンからこっちへ帰ってきてほしい。
 

○せみ2.0

・『それでも町は回っていいる』石黒正数
 女子高生探偵商店街コメディ。
 一話完結でオチがしっかりしているのが気持ちいい。
 時系列がシャッフルされていて、いつの話なのかと考えながら読む楽しみもある。
 公式ガイドブックの作者解題も読みどころ満載。

・『極黒のブリュンヒルデ』岡本倫
 風呂敷の広げ方が素晴らしい。
 写真記憶能力の主人公、超能力者のヒロインたちをめぐる能力バトルのギミック立てがおもしろい。

・『水惑星年代記』大石まさる
 SF。トーンをほとんど使わず、カケアミで濃淡を表現する描き味。
 宇宙帰りの女の人が地球に帰ってくるところから話がはじまる。食べ終わったお皿を無重力下と同じように捨ててしまう、のような発想がそれぞれあって面白い。


○反物質太郎

・『映像研には手を出すな!』大童澄瞳
 3人の女子高生が高校映像研を創部してアニメーションを作っていく話。
 宮崎駿の影響バリバリのメカ作画。
 漫画の空間についてのこだわりが強く、フキダシにパースがあったりピンボケがあったりという実験的な手法。
 アニメーター吉田健一からの影響も。
奇天烈な建物、異常に作り込まれたガラクタなど、個性的な設定。
学生主体だけどアニメ作りのコストなども考えながら作っていくのが魅力的なストーリー。

・『ちーちゃんはちょっと足りない』阿部共実
 中学2年生の3人組が繰り広げるゆるふわ日常系かと思いきや、5話から地獄の蓋が開きはじめる。
 その衝撃を味わってほしいので、あまり語らない方がいいかも。

・『ザ・ファブル』南勝久
 天才的な殺し屋の主人公が、あまりにも殺しすぎたせいで、ボスから1年間の休暇を命じられ、一体1年間殺しをやめられるのか、という話。
 ちょっとズレているだけで純朴な殺し屋の主人公が、大阪で時給800円のバイトをする健気さがおもしろい。
 争いたくない主人公のもとに裏業界にいたことから来るトラブルが襲ってくる。
 各キャラが魅力的。


○暴力とBLの運び手

・『地下鉄の犬』草間さかえ
 アナログ作画のBL。ペンの走りを活かした描線が持ち味。
 眼鏡大好き。攻め受けが両方眼鏡。
 過去のトラウマが精算されてくっつく。ネームの自然さに注目。

・『囀る鳥は羽ばたかない』ヨネダコウ
 ヤクザBL。
 主人公がビッチ(受)。過去に父親から性暴力を受けていたトラウマ。
 主人公が気に入ったボディーガード(攻)がEDで、どうする、という話。
 ボディガードが勃たなくなった理由も性暴力で、性暴力によってビッチになった人間とEDになった人間の対比。
 暴力とセックスが密接に結びついてしまって、がんじがらめになっているところがポイントの一つ。

・『キャッスルマンゴー』木原音瀬原作/小椋ムク
衝撃展開で名を馳せるカルト的人気のBL作家。
高校生の主人公の実家がラブホというおもしろ設定。
そのラブホを題材にAVを撮りにきたゲイの監督から弟を守ろうとする兄が暴走したりする。


今回はBLと百合漫画の割合が例年に比べて多い回となりました。
しかし、バトルマンガ、ギャグ、バンドデシネなどそこそこ幅の広い作品が集まったのではないかと思います。

このような具合で京大SF・幻想文学研究会は楽しく活動をしています。

今回こうした形で漫画コンペを成功させることが出来、会員たちもまだまだお勧め漫画のストックはあるようなので、次回のコンペの開催へと早くも期待が高まっています。



※入会希望の方はこちらを御覧ください
posted by KUSFA at 17:26| Comment(0) | その他活動 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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