2013年02月12日

てり『サリー&マグナムOF THE GENUS ASPHALT』(講談社BOX)レビュー

こちらでも仰られている通り、講談社BOXの『サリー&マグナムOF THE GENUS ASPHALT』を、作者のてり氏から直々にご献本いただきました。
ご献本の申し出に心から感謝するとともに、レビュー掲載を長く滞らせてしまったこと、深くお詫び申し上げます。
※別会員によるレビューを追記しました(2月13日)

主人公が三十歳フリーの空調業者、そのバディが体格のいいゲイ(しかもエロ描写あり)という時点で、この作品がいかにライトノベルの一般的な定型から外れたものかわかるだろう。また、基本は異能アクションなのだが世界観が若干ファンシーで曖昧さを持っているため、ライトノベル読者には違和感を感じる方もおられるかもしれない。アクションや伏線も、洗練されているとは言えない(意味もなく正体を現す敵とか)し、言語センスも読者層とズレている。はっきり言えば、ダサい。
 以上のような点からこの作品を非難するのは非常に簡単ではあるが、不思議にも読後感はそれほど悪くはなかった。それは第一には(作者が後書きで述べているように)大筋においてヒーローものの基本が守られて、アクションもそれなりに面白く、きっちりと浪花節で燃える展開へ持っていくからだが、さらに言えばこの小説全体の雰囲気が、前段落に述べたダサさを含めてなぜか居心地が悪くないからだろう。基本的に軽い雰囲気の退魔ものであり、生き死にを掛けたバトルを乗り越えた後でも、ラストはのほほんとしている。主人公の性格含め暢気な世界は、評者にはクドカン脚本のドラマを思わせた。ひょっこり主人公の元カノが現れてさっさと退場するあたり、並のライトノベルが書けるものではない。この、主人公がずるずると関係をもっている元カノにしても、いい歳してツンツンなままの幼馴染にしても、なかなか得難いキャラであるが、分量の関係上か登場シーンは少ない。
 メインヒロインがゲイだ(サブヒロインは美少年)とは先に述べたが、あからさまな性描写があるにもかかわらずBLジャンルではないと思われる。作者が意識しているかどうかはわからないが、ここにはジャンルという枷から自由な世界がある。日本SFの短編が一般雑誌にばんばん載っていた頃のような自由さ、と言えば年輩の読者はわかっていただけるだろうか。あの懐かしき有象無象の、無像の方の世界である。
それでいてどこかで地に足は付いていて、空調関係や土地描写、移動描写はしっかりしている。著者の経歴、人生経験という裏付けがあるからだろう。
 ライトノベル、小説一般としての技術的評価は決して高くはないし、分量から言っても小兵だが、このプリミティブでフリーダムな小説、意外にすれっからしの読者も初心者も楽しめるような守備範囲の広い小説ではないだろうか。

※※※※

イロモノである。断言して差し支えない。
会員の某氏が先だって書き上げたレビューには「プリミティブでフリーダム」という表現が成されているけど、自分が連想したのはギャグに走った作風の梶尾真治だ。「フランケンシュタインの方程式」とか、「魔窟萬寿荘」とか、その辺の。文体が凝られている訳でもなく、会話芸のテンポが気持ちよい訳でもない。読む事自体が快楽に結びついたりしないけど、非常に丁寧。しかし展開といいキャラクターといい、どれもこれもぶっ飛んでいる。第一話からして、男色吸血鬼に襲われた半裸の少年(幽霊)をゲイのにーちゃんが二つの玉を使って立ち向かう展開だ。この、何でもごだまぜにした感じ、ライトノベルだからこそ許容された変化球である。あと基本的にシモい。
もっとも、イロモノなだけであれば魅力もなにもあったもんじゃなく、「はぁ、イロモノですね」で終わってしまう。自分は、この作品が奇抜さの中で義理と人情の物語を貫いている点に注目したい。ゲイのヒロインを気持ち悪がらず、恩返しに性別変換して性的なご奉仕を迫る幽霊の美少年(美少女)を静止し、仲間の危機にはすぐに駆け出し、その姿を見て仲間がみんな駆けつける。変化球と見せかけて、そこで描かれるのは男気溢れる30歳の背中である。

「夢は、叶う。――四十五歳の新人ラノベ作家てり」という売り文句、「作家じゃなく作品で売り出せよ」とは思ったものだけど、読了してみるとあながち間違いでもないのかもしれない。主人公の年齢だとか、ヒロインの性別だとか、そんな要素は些事でしかないのである。変なパーツが集まっているのに、奇妙に真っ直ぐで爽やかなこの作品、売り文句に引かれて買うのなら、その読後感と帯文句の間にはシンクロするものがある。
posted by KUSFA at 22:50| Comment(0) | TrackBack(0) | その他活動 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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