2011年04月13日

4月12日『虐殺器官』読書会

今回はネームバリューの高い作品であったためか、社会人の方や他大学の方、2回生の方や新入生の方で計7人も参加して下さり、それに会員9人となったので大所帯の読書会となり大盛況でした。

読書会、ブログ更新担当はゆーすけです。

会員以外の7名のうち5名が未読であったためにまずはあらすじをさらっと撫でようかと思いきや、未読の人に気を遣いすぎたせいか長くなりすぎてしまい、この時点で既にタイムマネジメントがおかしいことに。


“『虐殺器官』は「わたし」を巡る物語”をキーワードに、“自由意思”という刀一本に絞って切り開くことになりました。集団意識と個人意識の境界の曖昧さと物質的な脳モジュール群のどこに“自由意思”が存在するのかという問いの中でシェパードは苦しみます。唯物論的な人間観を受け入れられないシェパード。まずは無神論者を自称しておきながら、魂とほぼ同意味の“自由意思”を信仰するシェパードの勘違いを指摘した上で、唯物論的な人間観の中でどこに“自由意思”を見いだせるかという方向に話は進みます。これには、ルツィアの言うようにミームや遺伝子に影響されながらも将来を予測し、最善の選択を下す「選択」の主体こそ“自由意思”なのだと担当者は主張します。
 しかし、そのような生存競争の最善手を「選択」する“自由意思”は2+2が4であるように、一つの答えに収束してしまうという点を指摘し、実際に作中で出てきた虐殺者たちやウィリアムズ、ジョン・ポール、シェパードが全て同じロジックで『正しさ』の狂信者になってしまっていることを指摘した上で、エピローグで吐いている大嘘と途中の終末願望からシェパードが『ダークナイト』のジョーカーのような世界精神型であることが分かるというネタを拾ってきて、実はこのシェパードの世界精神型行動こそが生存競争の外にある“自由意思”の発露であると、2+2が3や5でもいいじゃないかと宣言するシェパードの“自由意思”の表れなのではないかと結論付けます。
 この議論は、人と動物とを分ける人間性に他ならない“自由意思”の象徴としてジョーカーのような狂人を用意するところに諧謔性があり、そこに面白みがあると思って担当者は発表したのですが、これはあっさり会員の1人に突き崩されました。

 人間の意思決定は、人間の意識に現れる前に既に脳が決定を下しているという有名な実験に伊藤計劃が賛成の立場を示していたことから、“自由意思”とは「選択」なのではなく、「物質的な脳の選択の結果を受け入れる」ことではないのかという指摘は「罪を受け入れよう」としながら最後の最後まで失敗し続ける、まさに伊藤計劃が本作について説明した「新たな倫理を探し続けながら、それに挫折し続ける物語」という言葉を考えても実にまっとうでありました。
 それはシェパードがダメ人間だからではなく、社会そのものがそういう在り方になってしまっているのだという結論に落ち着きました。人間が唯の物質であるということ明らかにしつつある神経科学や、どこまでも物質的な良心をコントロールできるテクノロジーを通して、社会は個人に「選択」の結果を自身のものとして受け入れることを困難にしているのです。そしてこれが伊藤計劃の言う「逆セカイ系」なのです。
 虐殺の動機が無いことに気付いた虐殺者たちに、自分の「選択」の結果を外部にアウトソーシングするウィリアムズ(先進国市民の典型として書かれていることに注意)、皆が罪を受け入れることを提案したルツィアは「選択」こそ“自由意思”なんだという間違いをおかしており、罪を受け入れようとしたジョン・ポールはその前に殺されます。


最後には、「“自由意思”が「選択」の結果を受け入れるということならそんな“自由意思”は生存競争に必要無いじゃないか」と『ハーモ二ー』を未読の人間が『ハーモニー』のクライマックスに到達するというところまで議論は進み、ある程度やり尽くした感が出たところでもう時間も遅いと言うところで食事へ。

あまりにも人数が多いので食事場所を決定するのにも一苦労でした。


わりと自信のあったロジックが崩れたのは少し悲しかったのですが、読書会全体としては行けるところまでは行ったというところがあり、叩き台としての役割を果たせたのならそれはそれで大満足だということで、担当者の感想を終わらせてもらいます。

次回の新歓読書会は4月19日小松左京で「くだんのはは」です。
15日の新歓例会も来て頂けると会員は喜びます。


posted by KUSFA at 02:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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