テッド・チャンは寡作である反面、構成を相当練り込んでくる人です。そしてこの作品も多分に漏れず、様々な要素を上手く組み合わせています。
錬金術の発達した世界観に前成説を前提にした生物学を落とし込み、そこに命名学を加えることで遺伝子操作的な要素とプログラミング的な側面をプラスし、さらにはそこから生じてくる社会問題を提示するなど色々考えさせられる作品でした。
社会問題の提示に終わってその解決にまで踏み込めない部分が少しあったのが個人的には気になりましたが、一番面白かったのが、この作品において「進化」という単語が一度も出てこなかったこと。十九世紀のイギリスが舞台ですが、元々存在する生物のひな形が大きくなるという前成説的な考えだと進化もありえないという事になるんですよね。
また、錬金術が科学に組み込まれていることで科学と神学・宗教との区分が気になるところでしたが、それも「人を(名辞によって)一から生み出す(=神学の領域)のではなく複製する(=科学の領域)にとどまる」という帰結に終わるなど、その辺りの設定の組み込み方も巧みで読書会の題材としても非常に楽しいものとなりました。