読書会の内容に入る前に少し余談ですが。新歓ラインナップとして早いうちから『ハーモニー』はあがっていたのですが、先ほど伊藤計劃先生が急逝されたことで、追悼読書会としての側面もありました。ノベライズを除くとまだ長編二作目ということで、この『ハーモニー』は作家としての先が、心から楽しみにできるような作品だったと思います。謹んで哀悼の意を表します。
さて、今回の読書会では作品のアイデアの根幹をなしていると思われるフーコーの「生政治」と人間の報酬系についての議論が活発でした。それ以外にも多くの議題があり、予定の八時を越え、九時近くまで読書会は行われました。
以下、今回の議論内容をメモ程度に。
■個人と社会
・トァンは「私的」な行動を貫いているが、それは作品世界と照応するとどういう位置づけになるか
・この作品でいう「社会」=「共同体」=拡大した「家族」
・「家族」との関係に挫折したトァンという個人が、ハーモニーが達成された巨大な共同体に参入する話では?
・「政府」が小さな共同体に分割されている
・ヴァイガメントの単位、および距離とは?
・距離的にも近い場所に共同体はかぎるものではないのでは?>キアンたちが死ぬときはヴァイガメント単位だったはず
■技術ディティール
・WatchMeやオーバーテクノロジーのごまかし方が非常にうまい
・拡張現実とWatchMeはどの程度関連しているか
・こどもはWatchMeを入れていないが、どのように個人認証するのか=拡張現実を使うのでは?
・PassengerBirdなんかもかっこいい
・ピンクの迷彩ってどんなだよ
■意識について
・双曲線割引 ジョージ・エインズリー『誘惑される意志 人はなぜ自滅的行動をするのか』
・意識=意志の世界(クオリアとかは?)
・意識の消失と平和は直結しない
・平和的への意識制御が外注されている
■現代においてユートピアが成立する可能性
・フーコーの生権力の議論
・工学的に解決する(ex.東浩紀)
・生活はテクノロジーに密接につながっている=環境管理型の社会
■続編の可能性?
・子供はWatchMeを入れていないので、まだ意識を失っていない
・ハーモニー以後の社会は、ハーモニー以前と違うのか
・キノの「大人の国」じゃね?
読書会終了後は例によって食事に。晩御飯食べながら何話してたかあまり覚えてない。たぶん一迅社文庫全レビューの話。GW明けくらいにUstreamででも配信しようかと思ってますので、興味のある方はどうぞ。結局、創刊から丸一年読み続けてしまった……。
BOXに行くと狂乱さんがいて、かなり遅くまで会話していたのもいつもの通り。本にまとまるかわからない漫画は雑誌で買うというのは、大学生が身につける悪癖というか奇癖の一種だと思う。
最後に個人的な雑感として、『ハーモニー』の各章題はアメリカのインダストリアルバンド(プロジェクト?)Nine Inch Nailsの曲名からとられていますが、歌詞が内容に共振しているようにとれる部分もあり、なかなか面白いので興味がある人は調べてみるのも一興かと思います。特に「Mr.Self Destruct」はかなり楽しいので、おすすめ。
次回はGW明け、『ダンシング・ヴァニティ』読書会です。GWただ中の1日や5日も例会予定になってましたが、出席者が少ないため、中止にします。会員の気分で5日はあるかもしれませんが、そのときはそのときです。見学の方は次回読書会に来られるのが無難かと思います。